仕組み預金とは、ある「仕組み」により、金利が高めの預金のことを言います。
「仕組み」とは、デリバティブ(金融派生商品)を利用し、金利や満期、償還金、通貨などを投資家のニーズに合わせて設定した「仕組み」です。
仕組みは、預金、債券、円貨・外貨である通貨等で利用されます。以前のブログで「仕組み債の構造」という題名で債券について記載しましたので、今回は、預金の仕組みについておさらいします。詳しい構造は公表されていませんが、デリバティブとして考えられる仕組みを説明したいと思います。
「仕組み」で利用されるデリバティブとは、オプションやスワップなどのことを言います。オプションとは、外貨、金利などをあらかじめ約束した価格で、一週間後、一か月後、一年後など将来に売ったり買ったりできる権利です。スワップとは、例えば変動金利と固定金利を交換する金利スワップ、ドル等の外貨を円と交換する通貨スワップなどです。
デリバティブには条件が付与されます。
金利では「金利が一定の幅にある限り」、通貨では「為替相場が一定の幅にある限り」のような条件です。そのような条件のもとに金利が通常より高いなどの仕組みが組成されます。一定の幅を超えた、下限を下回った場合には、金利が出ない・減少する、元金が減少する、元金の通貨が変わり円建てでの元本割れが生じるなど、損失が発生する構造です。
デリバティブには、買手にオプション料等のコストがかかりますが、売手にはオプション料などが収入になります。そこで、通貨、金利などの相場が落ち着いて変動がなければ、売手には手数料が自動的に入ってきますので、これが売手の利益となります。例えば、平たく言うと、金利が通常よりも高い仕組み預金は、預金者がデリバティブの売手になっており、オプション料などが金利に上乗せされている預金です。ところが、相場が激しく変動するとデリバティブの条件の下限値を下回り、為替等の損失が発生する預金でもあります。損失は預金者がかぶる仕組みなのです。仕組み預金に手を出すと、デリバティブのような難解なものに手を出していないつもりでも実際には手を出しまうことになります。
一方、買手は、金利、通貨などの相場が落ち着いて変動がなければ、コストだけ負担して損をしてしまいます。そのようなデリバティブの買手は、どのような人なのでしょうか。デリバティブの買手は、大手の取引業者、金融機関、ファンドなどですが、初めから損をするような取引はしません。彼らは、いろいろなデリバティブの売手にもなって買手としてのコストを相殺【ヘッジ】しかつ利益を出すように行動しています。つまり損はしないような行動をしている訳です。
また、相場が激しく変動した場合は、デリバティブの売手である預金者は損をしますが、買手は買う権利を放棄して支払オプシュン料を諦めれば、それ以上の損は発生しません。大きな損失は被らない仕組みとなっています。
仕組み預金は、相場が安定していれば、現状からみて損失が発生する可能性が低く、金利が通常よりも高いなどメリットのあるように見える預金ですが、リスクが大きい預金であり、預ける人は、時には損失を被る可能性があることを認識した上で預け、相場の変動の兆候があった時に直ぐに処分する態勢を取っておく必要があります。外貨切換オプション預金は1ヵ月物からありますので、短期間の商品なら処分の問題は心配する必要がないかもしれません。
また、仕組み預金には、一般的な投資のリスク(①信用リスク②価格変動リスク③為替変動リスク④流動性リスク)がありますが、特に④の流動性リスクに注意が必要です。
仕組み預金は、クローズドエンド型の商品として基本的に中途解約することができない商品も多く、すぐ処分できないものがあるので注意が必要です。投資に際しては解約の是非、その価格について販売会社に十分確認することをお勧めします。
最後に、仕組み預金における注意すべきポイントを、以下の通り説明します。
<円・外貨切換オプシュン預金>
〇円から外貨へ交換する為替ポジションには特約判定日、満期の2つの時点が損益に影響します。
1つ目は、円が外貨に変わるかどうかを判定する特約(仕組み・デリバティブ)の判定日です。この時点で、一定の条件の為替の変動であれば、円の元本は円でそのまま継続します。しかし、例えば、大きな円高・外貨安になる等その範囲を超えてしまうと、その時点で、円の元本が外貨に変わり、安い外貨の元本になります。つまり含み損になります。外貨を円に交換すると損は実現損になり、円に交換する為替手数料も損になります。
2つ目は、満期日です。満期日に外貨が支払われる場合には、満期日の為替レートは、満期になって払戻しを受ける時点の実勢為替レートでもなく、特約判定日の為替レートでもありません。特約(仕組み・デリバティブ)を締結した時の実勢為替レートを基にした不利なレートとなります。よって、特約判定日(満期日の2営業日前)における償還される外貨が円安外貨高になっても円建て換算する為替差益は享受できません。また、償還される外貨が円高外貨安になれば、円建て換算すると含み損になり仕組み預金の保有期間では、ほぼ為替では損することはあっても得することはない商品です。つまり、為替リスクを預金者が負担する預金です。
〇また、適用金利は、通常の預金金利とデリバティブのオプション料(利益)に分かれます。契約上は、2つの収益が合算されており内訳として分離されていませんが、概ね、適用金利から契約時点の定期預金金利を差引いたものがオプション料と考えてよいでしょう。
<外貨・円切換オプシュン預金>
外貨を預ける、外貨・円切換オプシュン預金の基本構造は、円・外貨切換オプシュン預金と同じで、通貨が異なるだけです。
<満期延長預金>
将来適用金利が高くなる場合は、払戻しとなり、高い金利で預金を継続することができません。また、将来適用金利が安くなる場合は、期間延長され、安い金利が適用され続けるため他の投資などで運用できず機会損失が発生します。この場合は、最大10年間資金が拘束されることになります。外貨建て長期保険の仕組みに似ているものの、外貨建て長期保険は解約返戻金が保険料総額より少なく損失が発生しても途中解約できるので、保険より拘束性が強い商品です。
結論
仕組み預金は、円・外貨切換オプシュン預金の場合に相場が安定している時に金利が高いというメリットを考慮すると同時に、相場が急変して円安外貨高になった時に為替損失を被る、為替差益を得ることができない等のデメリットを覚悟すれば、運用の1つの選択肢になると思います。
同様に、満期延長預金も、余裕資金があり、低金利が長く続くと予想できるなら、金利が高いというメリットを考慮すると同時に、途中解約できない、運用期間が長く資金を寝かせることになる等のデメリットを覚悟すれば、運用の1つの選択肢になると思います。
このデメリットを受けいれられない人は、仕組み預金には手を付けないようにしましょう。
は、仕組み預金は、具体的にはどのようなものでしょうか。
現在、日本において販売されている仕組み預金の1例は、以下の通りです。 | |
商品の1例 | 円・外貨切換オプシュン預金 |
商品概要
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1ヵ月満期の円で預け入れの後、受取元本通貨が円または外貨となる |
為替コスト無料で外貨普通口座への入金となる | |
一定期間、外貨のまま運用を推奨する | |
運用における金種は、預入 円、満期受取 円又は外貨、金利受取 円 | |
基本は円貨預金のため、預金保険制度の対象である | |
特約判定日(満期日の2営業日前)の為替レートが、契約時の特約レートより円安(外貨高)であれば元本を安くなった円で受取る(元本維持)
契約時の特約レートより円高(外貨安)であれば安くなった外貨で受取る(元本割れ) |
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その際、元本はあらかじめ定められた為替レート(契約時の特約レート)にて円貨に転換される、実勢為替レートと比べて不利なレートとなる | |
リスク | 受取元本通貨は、通貨安の外貨となるリスク(損失リスク) |
原則、途中解約不可 | |
対象者
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円を持ち、円、外貨での運用先を探している |
なるべく高い金利で預けたい | |
円貨が外貨に変わっても良い | |
元本割れのリスクを許容できる | |
途中解約不可でもよい | |
現状の円為替レートで外貨に交換する前提で将来、為替レートが外貨安(円高)に進んで外貨を受取っても、外貨高(円高)に進んで円で受けとっても満足できる | |
デリバティブ・プレミアム(金利)源泉 | 預金者が、為替プットオプションの売り手となってもらうオプション料が源泉となる |
預入が外貨、満期受取が外貨又は円、金利受取が外貨の商品は、外貨を預け入れる外貨・円切換オプシュン預金(上記の逆)があります。類似商品もあります。外銀では、最低投資額が高いものの、金利、期間、為替等の選択肢が多い仕組み預金があります。
また、預入通貨が円で金利受取、満期受取全てが円の仕組み預金の1例は、以下のとおりです。
商品の1例 | 満期延長預金 |
商品概要
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元本保証 |
預入期間が最短で1年、最長で10年 | |
満期日が延長 | |
預入後1年ごとに最大9回見直し | |
運用における金種は、預入 円、満期受取 円、金利受取 円 | |
預金保険制度の対象 | |
フラット型・預入期間中の金利が一定、
ステップアップ型・満期が延長される度に金利が上がる |
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毎年金利が見直される | |
期間延長の決定日に
現適用市場金利・年<将来適用予想金利・年の場合、満期で払戻しされる、高い金利で預金を継続することができない 現適用市場金利・年>将来適用予想金利・年の場合、満期が期間延長される、安い金利が適用され続ける 他の投資などで運用できず機会損失が発生する |
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リスク
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最長で10年拘束されるリスク(流動性が落ち資金が引き出せないリスク) |
原則、途中解約不可 | |
金利上昇時に、上昇後の金利で運用できないリスク(機会損失) | |
※調整金
相続や差押え等、この預金が第三者に承継、満期前に解約された場合、中途解約(例外)時と同様に調整金が発生する |
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対象者
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円を持ち、円での運用先を探している |
なるべく高い金利で預けたい | |
円の元本を維持したい | |
預入期間が最大10年に変わっても良い | |
途中解約不可でもよい | |
将来、金利が上がっても現状の金利で満足できる | |
デリバティブ・プレミアム(金利)源泉 | 預金者が、金利オプションの売り手となってもらうオプション料が源泉となる |