個人型確定拠出年金(IDECO)制度拡充の概要

個人の財産形成制度として、個人型確定拠出年金(IDECO)制度が拡充されました。

財産形成制度は、従前より、大きな企業において確定拠出年金制度(DC)として導入されていましたが、中小企業にはあまり浸透しておらず、広く従業員の財産形成を促進するため、個人型確定拠出年金(IDECO)制度が導入されました。2017年1月より、制度をより浸透させるため、その拡充が行われました。なお、この制度は、企業における制度ではなく、従業員個人が加入を希望すれば、任意に加入できる制度です。

順番に説明をしていきます。

〇メリット

・加入者個人が運用の方法を決めることができる。

・社員の自立意識が高まる。

・経済・投資等への関心が高まる。

・運用が好調であれば年金額が増える。

・年金資産が加入者ごとに管理されるので、各加入者が常に残高を把握できる。

・一定の要件を満たせば、離転職に際して年金資産の持ち運びが可能。

・企業にとっては、掛金の追加負担が生じないので、将来の掛金負担の予測が容易。

・掛金を算定するための複雑な数理計算が不要。

・拠出限度額の範囲で掛金が税控除される。

〇デメリット

・投資リスクを各加入者が負うことになる。

・老後に受け取る年金額が事前に確定しない。

・運用するために一定の知識が必要。

・運用が不調であれば年金額が減る。

・原則60歳までに途中引き出しができない。(退職金の代わりにはならない)

・勤続期間が3年未満の場合には、資産の持ち運びができない可能性がある。

・加入者ごとに記録の管理が必要になるため、管理コストが高くなりやすい。

〇拠出限度額

2017年1月より、新規対象者に拠出限度額/月として

専業主婦が23,000円 (年間276,000円)

DC(確定拠出型)のみある会社員が20,000円 (年間240,000円)

DB(確定給付型)のある会社員、公務員等が12,000円 (年間144,000円)

が追加されます。

〇課税

拠出時、運用時、受取時にそれぞれ所得税、住民税の優遇措置の対象が拡大されます。とくに、拠出時に拠出限度額以内なら全額を損金に計上できるので拠出額の数十%の所得税・住民税が減少することになります。

個人型確定拠出年金は、個人の財布(手取り)から拠出するので、ちょっとハードルが上がるかも知れませんが、メリットがある制度です。

但し、商品が多様にある金融機関を決定し、かつ運用商品の中から自分の投資方針に沿った商品を選択しなければなりません。DC(確定拠出)年金では、会社が選んだ金融機関(会社の取引先が多い)の商品しか選べず、選択肢が限られていましたが、個人型確定拠出年金IDECOでは、自分で金融機関を選べるので、選択肢は広がりました。その分いろいろな金融機関があるのでどこを選択するか迷うこともあるようです。インターネット、雑誌等で評判の良い会社を選択し、積極運用、安定運用、バランス運用等投資方針を決定の上、自分に合った商品を選択することになります。

では、実際に商品を選ぶにはどうしたらよいのでしょうか、

まず個人型確定拠出年金(IDECO)の商品を用意している証券会社を選び、その証券会社で用意されている商品から自分が判断して投資する仕組みとなっています。証券会社毎に商品の数、内容が違いますので、選択肢の多い証券会社を選ぶ必要があります。また、用意された商品から自分の投資目的(積極運用、安定運用、バランス運用)に応じて以下のポイントも考慮し投資商品を選択します。

投資目的以外の選択ポイント

・コスト :販売手数料、信託報酬、信託報酬留保額(解約時)がコストになります。できるだけ手数料が安い、信託報酬が安い、信託報酬留保額がないものを選択します。ETFは手数料が無料または、手数料が安いです。主にインターネット証券が取扱っています。信託報酬は毎年かかるので、運用期間×信託報酬率の比率がコストになります。

・税金  :投資信託の節税のメリットについては拠出時、運用時、分配時にどの程度非課税になるか計算します。各人の所得に従って、節税額は異なりますので、個別の計算が必要です。

・資産規模:少なくとも50億円以上、できれば100億円以上が望ましいと思います。資産規模が小さいと、分散できない、投資効率が落ちる等の弊害があります。

・運用期間:信頼性があるのは、5年~10年以上の運用期間の実績のある商品です。好況、不況のサイクルを経た結果、結果を出している商品を選ぶことができます。

・リスク許容度と投資分散:どれだけ損が許容できるかにより商品選択を行います。リスク許容度の測定、投資分散を自分で、または専門家に相談して、投資を行います。株式は、一般的に20%~25%、場合によっては40%~50%以上価格が変動するリスクがありますので、それを考慮する必要があります。

詳しくは、以前のブログ「投資信託の投資のポイント①」を参照して下さい。

個人型確定拠出年金の概要を表にすると、次の通りです。

厚生労働省HPより抜粋し編集

項目 厚生年金 企業型確定拠出年金DC 個人型確定拠出年金IDECO
加入者 会社員 DB(確定給付),DC(確定拠出型)のある会社員 DC(確定拠出型)のない会社員、自営業者、学生
拠出

 

会社50%(福利費)

個人50%(給与天引)

会社100%

(福利費)

個人100%(手取から拠出)
 

 

 

拠出時 非課税 非課税 非課税
運用時 非課税 非課税 非課税
年金受取時 雑所得課税 雑所得課税(60歳以降) 雑所得課税(60歳以降)
一時金受取時  - 退職所得課税 退職所得課税
運用主体 個人(投資商品指定) 個人(運用機関指定)
運用機関の選択 会社 個人
拠出限度額/月 標準報酬月額×一定率で国が定める DC(確定拠出型)のある会社員 55,000円

DB(確定給付型)のある会社員 27,500円

DC(確定拠出型)のない会社員      23,000円

自営業者、学生 68,000円

同上(2017年1月以降の新規対象者) 専業主婦   23,000円

DC(確定拠出型)のみある会社員   20,000円

DB(確定給付型)のある会社員、公務員等2,000円

 

 

 

 

 

2017年11月1日 | カテゴリー : 年金, 資産運用 | 投稿者 : ファインRアドバイザー

日本の国富は真実か

内閣府の国民経済計算確報(2016年1月15日)によると、日本の国富は国全体の正味財産(民間・政府合計の貸借対照表における純資産=資産から負債を控除したネットの財産に当たるもの)で金額は3109兆円になるとのことです。国の借金1000兆円を含む債務を控除後の数値です。

これを聞くと日本には相当の財産があるものと考えがちですが、実はいくつかの盲点があるのです。

①純資産から年金債務が控除されていなことです。
②政府分を抜き出してみると、純資産がマイナス13兆円の債務超過となっていることです。

①純資産から年金債務が控除されていないこと。

2016年12月19日の日本経済新聞の記事に「年金債務が2030年・約1262兆円になる」との試算が出ていましたが、ここでは2014年・約1000兆円と推定し計算します。この1000兆円は、国の国債等の借金1000兆円とは別の債務で、合計すると約2000兆円になります。きわめて衝撃的な金額です。

日経新聞の試算過程を推定しますと2014ベースで保険料支払済みの受給権者(25年以上の加入実績がある人)33百万人、一人当たり月給付額14万円、65歳から85歳までの給付期間20年=240月で、年金給付総額は1108兆円となり、そこから積立金160兆円を差引くと約1000兆円となります。

例えれば英会話スクールでの前払い授業料を授業という給付を受ける債務の価値として評価するものです。国際的に適用されている会計基準では、こうした受給権は、給付総額を優良債権(例えば国債)の利率により20年間で割り引いた現在価値で債務として評価するのですが、現在の国債の利率は、ほぼゼロに近いので、給付総額≒債務となり、債務は約1000兆となります。

国際会計基準によれば、保険料は支払済みであり受給権が派生しているので、隠れ債務に当たります。国の制度としては、積立方式ではなく、賦課方式(=現役世代の保険料で、退職世代の年金を賄う単年度収支方式)を採っているため、計上していないのです。

この年金債務を控除すると国富が1/3も減少します。

②政府分を抜き出してみると、純資産ががマイナス13兆円(2014年度)の債務超過となっていること。

政府の借金(主に国債)1000兆円の債務を控除した後の数値で、13兆円の債務超過となっていますが、これに上記の年金債務1000兆円を加えると1013兆円の債務超過となります。但し、その借金の大部分は日本国内から借り入れていますので今のところ他国から債務削減を要求されずにいます。つまり日本の民間の財産を頼りに政府が借金をしている構造です。

一方、ギリシャ等の重債務国は、他のユーロ諸国から借金をしていることが原因で、緊縮財政策の実行を余儀なくされています。

日本の政府の債務は膨大であり、このまま増え続ける国債が日本国内で消化できず外国に引き受けてもらう、いわゆる外国から借金をする構造に陥るとギリシャの様な緊縮財政策を採らなければならなくなります。すると国の信頼性が揺らぎ、通貨の価値が減少、為替が暴落(円安)、輸入物価が高騰し、インフレとなります。(なお、ギリシャの通貨はユーロなので為替が暴落しないで済んでいます。)

また、国債が日本の民間で消化できずに日銀に引き受けてもらう、いわゆるヘリコプターマネーによる財政フィナンスが行われるとインフレに陥ることになります。つまり国が紙幣をばらまくことで紙幣の信頼性が揺らぎ、通貨の価値が減少、為替が暴落(円安)、輸入物価が高騰し、インフレとなります。
注①ヘリコプターマネーとは、ヘリコプターからお金をばらまくように市中にお金を大量に供給し、そのお金を使ってもらうことで景気を刺激する政策ですが、激しいインフレを引きおこす可能性があります。
注②政府(国)が発行した国債を日銀(国)が直接引き受けることで政府(国)が資金を調達することです。

加えて、インフレなのに経済が停滞するスタグフレーションになることもあります。

日本の歳入と歳出の基礎的収支(プライマリーバランス)は毎年赤字で国債を30~40兆円発行し借金1000兆円は増え続けている、日銀が国債を毎年80兆円購入し日銀保有残高は2016年12月で400兆に、2年後には600兆円になりそう等、異常な状況が続いています。

また、少子高齢化等経済成長の足かせとなる構造に対応する対策がとられていない状況です。

このような中で、日本は重債務国の道をひた走っており、将来の国情は非常に厳しいものになるでしょう。

日本の国富は相当の額があるように見えますが、過去日本が高度成長時代に蓄えたものであり、債務が急激に拡大する中で、財産も急激に減っていくのではないかと思います。それを取り崩すだけでは、将来はありません。

日本のこうした状況から脱却し未来へ向けて発進するためには、歳入と歳入の収支の黒字化、年金制度改革その他の構造改革をしっかり推し進めていかなければならないのではないでしょうか。

 

2016年12月30日 | カテゴリー : 経済, 年金 | 投稿者 : ファインRアドバイザー

日本国の社会保障債務の行方

2016年12月19日の日本経済新聞の記事に「2030年に社会保障債務が約2000兆円になる」との試算が出ていました。内訳は年金が1262兆円、医療が458兆円、介護が247兆円です。これは、国の国債等の借金1000兆円とは別の債務です。

年金について別途2030年の債務を試算してみました。保険料支払済みの受給権者(25年以上の加入実績がある人)40百万人、一人当たり月給付額14万円、65歳から85歳までの給付期間20年=240月とすると、年金給付総額は1344兆円となり、そこから積立金100兆円を差引くと1200兆円となります。例えれば英会話スクールでの前払い授業料の債務を授業という給付を受ける権利の価値として評価します。国際的に適用されている会計基準では、こうした受給権は、給付総額を優良債権(例えば国債)の利率により20年間で割り引いた現在価値で債務として評価するのですが、現在の国債の利率は、ほぼゼロに近いので、給付総額≒債務となり、債務は約1200兆となります。この債務は、保険料により積立ててあれば、積立資産と債務が両建てとなり相殺すれば債務はゼロとなりますが、現在の積立金は100兆円しかありません。しかも、政府の貸借対照表には年金の債務が計上されていないのです。つまり隠れ債務に当たります。国際会計基準を採用している企業では隠れ債務が許されないのに国が隠れ債務を持っている訳です。
なぜ国では年金債務が計上されていないのでしょうか。国の制度としては、積立金方式ではなく、賦課方式(=現役世代の保険料で、退職世代の年金を賄う単年度収支方式)を採っているため、計上しなくてよかったのです。そこで、過去の剰余金として10%程度しか積立がされていなかった訳です。

一方、医療、介護の債務につては、保険料支払済みの受給権というものはありません。例えれば英会話スクールで毎月授業料を支払い授業という給付を受ける形です。仮に受給権は発生しても授業を受けた段階で消滅しますので、1月で債務は消滅してしまいます。医療、介護については賦課方式(=現役・退職世代の保険料で、現役・退職世代(割合では退職世代が多い)の医療、介護の給付を賄う単年度収支方式)を採用するのが妥当なので、日経新聞に出ていたような債務を計上する必要はないと思います。年金と比較する上で医療、介護についても、同じように計算したのではないかと思います。

今後、今後少子高齢化により現役世代の減少が進む中で増加する退職世代の年金、医療、介護の給付を確保することはできなくなってくるでしょう。
すると年金、医療、介護の給付を保険料等(一部は一般財源の税金)で賄うことができなくなる可能性は高く、保険料を値上げするにも限度があり、年金を削減していくか、現役世代だけでなく、退職世代とくに高齢者の自己負担を増やしていくか、あるいは消費税を10数%アップして、税金で賄っていくしかありません。

いずれにせよ退職世代だけでなく現役世代にとっても厳しい将来が待ち受けています。政府は、消費税増税を何度も延期し、構造改革も掛け声だけであまり進めておりません。現在、将来を見据えた年金・医療・介護の制度改革が待ったなしの状況です。そうした改革の中で、現役世代と退職世代ともに痛みを分かち合う対策、および消費税の社会保障財源化対策が必要ではないでしょうか。

個人型確定拠出年金の概要

個人型確定拠出年金の概要は次の通りです。

厚生労働省HPより抜粋し編集

項目 企業型確定拠出年金DC 個人型確定拠出年金IDECO
加入者 DB(確定給付型),DC(確定拠出型)のある会社員 DC(確定拠出型)のない会社員、自営業者、学生
拠出

 

会社100%(福利費) 個人100%(手取から拠出)
 

 

 

拠出時 非課税 非課税
運用時 非課税 非課税
年金受取時 雑所得課税(60歳以降) 雑所得課税(60歳以降)
一時金受取時 退職所得課税 退職所得課税
運用主体 個人(投資商品指定) 個人(運用機関指定)
運用機関の選択 会社 個人
拠出限度額/月 DC(確定拠出型)のある会社員     55,000円

DB(確定給付型)のある会社員     27,500円

DC(確定拠出型)のない会社員      23,000円

自営業者、学生 68,000円

同上(2017年1月以降の新規対象者) 専業主婦    23,000円

DC(確定拠出型)のみある会社員       20,000円

DB(確定給付型)のある会社員、公務員等    12,000円

メリット
・加入者個人が運用の方法を決めることができる。
・社員の自立意識が高まる。
・経済・投資等への関心が高まる。
・運用が好調であれば年金額が増える。
・年金資産が加入者ごとに管理されるので、各加入者が常に残高を把握できる。
・一定の要件を満たせば、離転職に際して年金資産の持ち運びが可能。
・企業にとっては、掛金の追加負担が生じないので、将来の掛金負担の予測が容易。
・掛金を算定するための複雑な数理計算が不要。
・拠出限度額の範囲で掛金が税控除される。

デメリット
・投資リスクを各加入者が負うことになる。
・老後に受け取る年金額が事前に確定しない。
・運用するために一定の知識が必要。
・運用が不調であれば年金額が減る。
・原則60歳までに途中引き出しができない。(退職金の代わりにはならない)
・勤続期間が3年未満の場合には、資産の持ち運びができない可能性がある。
・加入者ごとに記録の管理が必要になるため、管理コストが高くなりやすい。

2017年1月より、新規対象者に拠出限度額/月として
専業主婦が23,000円 (年間276,000円)
DC(確定拠出型)のみある会社員が20,000円 (年間240,000円)
DB(確定給付型)のある会社員、公務員等が12,000円 (年間144,000円)
追加されます。

拠出時、運用時、受取時にそれぞれ所得税、住民税の優遇措置の対象が拡大されます。とくに、拠出時に拠出限度額以内なら全額を損金に計上できるので拠出額の数十%の所得税・住民税が減少することになります。

個人型確定拠出年金は、個人の財布(手取り)から拠出するので、ちょっとハードルが上がるかも知れませんが、メリットがある制度だと思います。
但し、商品が多様にある金融機関を決定し、かつ運用商品の中から自分の投資方針に沿った商品を選択しなければなりません。DC(確定拠出)年金では、会社が選んだ金融機関(会社の取引先が多い)の商品しか選べず、選択肢が限られていましたが、個人型確定拠出年金IDECOでは、自分で金融機関を選べるので、選択肢は広がりました。その分いろいろな金融機関があるのでどこを選択するか迷うこともあるようです。インターネット、雑誌等で評判の良い会社を選択し、安定運用、積極運用、バランス運用等投資方針を決定の上、自分に合った商品を選択することになります。

 

年金法改正案の内容

2016年11月29日に国民年金法改正案が衆議院で可決されました。まだ、参議院で可決されてはいませんが、年金の今後の方向を確認する上で重要な法案です。

現在、年金の金額を調整する方式には、物価・賃金の変動に合わせて年金額を調整する「賃金スライド」、「物価スライド」、年金の賦課方式(現役世代が高齢世代を支える方式)の現役被保険者の減少分と高齢受給者の余命の伸長分だけ給付を削減する「マクロ経済スライド」があります。

・「賃金スライド」
新規の受給者は現役世代並みを維持するため、当初は賃金変動率により調整されます。(但し、賃金・物価変動率共にマイナスで物価変動率<賃金変動率の場合、物価変動率で調整、または現状維持にする例外があります。)

・「物価スライド」
既存の受給者は実質購買力維持のため物価変動率により調整されます。(但し、物価変動率<賃金変動率の場合、賃金変動率で調整、または現状維持にする例外があるため、本来は賃金変動率により調整されるはずでしたが、過去に調整されたのは例外的でした。)

・「マクロ経済スライド」
物価・賃金の上昇に際しては、年金額を増額しますが、給付削減のための「マクロ経済スライド」がある場合は、将来増額すべき年金額から、「マクロ経済スライド」減額分を控除(減額が増額より大きい場合は現状維持とし激変を緩和)します。つまり物価・賃金が上昇している時には年金額は増額又は現状維持するものの減額はされません。
・物価・賃金の下落に際しては、年金額を減額します。給付削減のための「マクロ経済スライド」がある場合であっても将来減額すべき年金額に「マクロ経済スライド」減額分を上乗せはしません。(減額幅を抑え激変を緩和します。)
上記は年金の減額の仕組みに給付激変の緩和措置を取入れたものです。本来は緩和部分が繰延されるはずでしたが、過去に繰延されたのは例外的でした。

ところが、今回の改正案は、新聞を読んだ限りでは、既存の受給者について物価変動率<賃金変動率の場合、原則どおり賃金の変動に応じて年金が調整されること、マクロ経済スライドが強化され、給付激変の緩和部分も持越・繰延して将来の年金抑制を図ることが盛り込まれているようです。特に、物価が上昇しても賃金の上昇が少ないまたは賃金が減少する場合には、賃金を基準に年金を調整(減額)することになります。
つまり、1990年代に日本が陥った、物価が上昇するけれども経済が停滞し収入・賃金が延びない悪い経済状況(スタグフレーション)では、年金が減額され生活が苦しくなります。
また、現在の経済状況においても、類を見ない金融緩和にも拘わらず経済が拡大しないのは賃金が上がらないからだとの経済学者の見解もあり、今後物価は上がるけれども賃金は上がらずその賃金に応じて年金額が決められていく可能性が高いと思われます。

国の予算の赤字が止まらず社会保障費の年金費用が増加する中で、年金費用の抑制のためには、諸施策を講じた上、現役・高齢者双方が痛みを別ち合う形であれば、年金削減も致し方ないとは思いますが、本来は100年安心な年金と言われた年金制度の構造的綻びを是正するための構造改革を進めるべきではないかと思います。

少子高齢化により、現役が高齢者を支える構造だけでは立ち行かないので、賦課方式(現役世代が高齢世代を支える方式)に加え積立方式(退職金・退職年金方式)を制度に組み入れる、保険料の徴収を強制化(税と同じように徴収)する、被保険者の対象を拡大(短時間労働者の組入れ等)する、受給年齢を引上げる、高齢者の就業機会を拡大する等、総合的な施策により年金制度の再構築・維持発展を検討すべき時期にきているのではないかと思います。

2016年11月28日 | カテゴリー : 年金 | 投稿者 : ファインRアドバイザー

扶養控除の改正

最近、税制改正論議の中で扶養控除が新聞を賑わせていますが、扶養控除は所得税だけでなく社会保険等についても同時に検討が必要です。

所得税の扶養控除の非課税限度額・年間103万円(基礎控除38万円+給与所得控除65万円=103万円)が主に専業主婦からなるパート等の短時間労働を縛っているとの報道がなされています。パート等の短時間労働者は、年間給与が103万円以内の被扶養者であれば、夫等の扶養者の扶養控除として38万円を所得控除できることになっていますので、103万円の非課税限度内の年間給与にとどめるよう働く人が多く存在します。
一方、社会保険(年金、健康保険等)では、パート等の短時間労働者が被扶養者であれば一定条件のもとに保険料を免除されます。
その一定条件(概要)とは
①勤務先が正規従業員500人以下、年間給与106万円(月給8.8万円)未満、 週の労働20時間未満、勤務期間1年未満いずれかを満たす場合・・・2016年10月から適用
 ②上記以外で週の労働30時間未満かつ年間給与130万円(月給10.8万円)未満
となっています。

つまり、パート等の短時間労働者かつ被扶養者は、所得税の扶養控除と社会保険料の免除の両方が満たされたとき最大のメリットを受けることができますので、103万円の非課税限度内の年間給与にとどめる人が多いのです。現在、所得税の扶養控除の廃止、夫婦控除の新設によりパート等の短時間労働者の労働の自由度を上げることが検討されていますが、社会保険料の免除についても損得が発生しないような制度変更がなされなければ、短時間労働の縛り・壁を解消することはできないと思われます。実際に、日経新聞の記事によると短時間労働者の年間給与水準の分布は103万円を境にそれを超える人は急激に減少しています。
また、雇用主側においても社会保険料の負担増を避けるために年間給与を106万円の社会保険料免除限度額以内に収まるように短時間労働の内容を抑えてくるケースも予想されます。

 加えて、所得税の扶養控除、社会保険料の免除だけでなく保育所、保育士の不足等も短時間労働の制約条件となっています。
ですから、所得税の扶養控除が改正されたとしても、現状における短時間労働者の就業状態はあまり変わらない可能性が高いと思われます。

一方、2016年10月からの社会保険の制度改正により、被扶養者でない短時間労働者(自営業者の配偶者、未婚者等)のうち新たに健康保険、厚生年金等の加入員となり雇用主から社会保険料を徴収される人は、社会保険料の労使折半よって保険料の自己負担が減少し、かつ2階建て年金(報酬比例分)が加算されることになり、労働条件が改善されます。

いずれにしても、パート等の短時間労働者の活用を実現するため、政府は縦割りではない多方面にわたる総合的な施策を展開するべきでしょう。