米国の大統領にトランプ氏が決まり世界中が驚くと同時に、新しい米国政府に採用されると思われる政策を先取りして、世界中の株価、為替、金利等が大きく変動しています。実際にトランプ大統領が就任して諸政策が実行されるまでは、どのような影響があるかわかりませんが、トランプ氏の積極的なの経済政策に期待して、米国、日本では株高、円安ドル高が進展し、経済的プラス要因と期待されています。一方、新興国では通貨安の進行により資金が米国に還流し始め、経済的マイナス要因として危惧されています。
日本にとっては、円安による輸出増、企業利益の増加の期待があるものの、気になる点が長期金利の上昇です。米国では財政赤字の拡大、インフレの予想により長期金利が(短期金利より先に)上昇し、また日本においても低金利政策にもかかわらず長期金利が(短期金利より先に)少しづつですが上昇しています。海外金利が上がると日本の金利も上がるという金利選好理論と同じ結果となっています。
金利の中で短期金利は中央銀行の様々なオペレーションで目標値に収めるように誘導されていますが、長期金利は主に経済環境、市場取引に委ねられることが多いので、急激に変動する可能性があります。
長期金利が上がると、長期資金(企業の投資資金の借入れ、住宅ローン等)の金利増加により、経済活動に悪い影響が出てきます。
経済活動が順調に成長しているときにインフレとなり、それに従って短期・長期の金利が上がるのは良い経済循環ですが、長期の金利が上昇(後に短期金利が上昇)、物価が上昇するけれども経済が停滞し収入が延びない悪い経済状況(スタグフレーション)になる可能性もあります。日本も90年度以降、バブルの崩壊でスタグフレーションになりました。
現在の日本では、日銀による金融緩和政策で短期金利はマイナス金利、長期金利ははゼロ金利に誘導されていますが、金融緩和を何年か後には止めざるを得ない、つまり金利を上げていかなければならないので、将来金利は上がるものと考えておくべきでしょう。
米国においては、良い経済発展を期待されて株価が延びていますがトランプ大統領の政策を見守るしかありません。
一方、日本においては、円安ドル高で輸出が伸び経済が成長する要素もありますが、2013年から2015年にアベノミクスで円安、輸出増があったものの経済成長(GDP)率は今一つであった過去の結果、また、円安、輸出増があったとしても少子高齢化、海外生産移転による国内産業空洞化、規制改革の遅れ等の経済基盤の弱体化を考慮すると日本経済の成長は楽観を許しません。
政府の経済政策の3本の矢(金融政策、財政政策、規制緩和等の成長戦略)のうち、実行が遅れている規制緩和、構造改革を進め日本経済の再生・成長を成功させることが望まれますが、現段階で進んでいないことを考えると、すぐには起こらないものの、上記のスタグフレーションに対するリスク対策を考えておくことも必要となります。
ところで、全体的な経済問題はさておき、身近なところでは、どのような影響が出るでしょうか。スタグフレーションにおいては、収入はそのまま物価、金利だけ上がる訳ですから、普段の生活が苦しくなるとともに、長期借入金、住宅ローン等の長期資金はその返済に苦慮する場面も出てくると思われます。とくに日本では持ち家志向が強く住宅ローンを抱えている人が多いので、今後、変動金利、一定期間固定金利選択型変動金利で契約している人は、金利動向を綿密にチェックし、金利が上昇する前に繰り上げ返済、または固定金利に切り替えられるよう準備をしておくことが必要となります。
また、債券で運用している人は、金利上昇により債券価格が下落し含み損失が発生します。満期まで保有していれば、実質価値は減少しますが元本割れにはなりません。しかし途中換金が必要となれるば、元本割れが生じ実現損が発生しますので注意が必要です。今後、債券投資は、期間の長いものを避け期間の短いものにシフトすることを検討することが大切になってきています。