日本の国富は真実か

内閣府の国民経済計算確報(2016年1月15日)によると、日本の国富は国全体の正味財産(民間・政府合計の貸借対照表における純資産=資産から負債を控除したネットの財産に当たるもの)で金額は3109兆円になるとのことです。国の借金1000兆円を含む債務を控除後の数値です。

これを聞くと日本には相当の財産があるものと考えがちですが、実はいくつかの盲点があるのです。

①純資産から年金債務が控除されていなことです。
②政府分を抜き出してみると、純資産がマイナス13兆円の債務超過となっていることです。

①純資産から年金債務が控除されていないこと。

2016年12月19日の日本経済新聞の記事に「年金債務が2030年・約1262兆円になる」との試算が出ていましたが、ここでは2014年・約1000兆円と推定し計算します。この1000兆円は、国の国債等の借金1000兆円とは別の債務で、合計すると約2000兆円になります。きわめて衝撃的な金額です。

日経新聞の試算過程を推定しますと2014ベースで保険料支払済みの受給権者(25年以上の加入実績がある人)33百万人、一人当たり月給付額14万円、65歳から85歳までの給付期間20年=240月で、年金給付総額は1108兆円となり、そこから積立金160兆円を差引くと約1000兆円となります。

例えれば英会話スクールでの前払い授業料を授業という給付を受ける債務の価値として評価するものです。国際的に適用されている会計基準では、こうした受給権は、給付総額を優良債権(例えば国債)の利率により20年間で割り引いた現在価値で債務として評価するのですが、現在の国債の利率は、ほぼゼロに近いので、給付総額≒債務となり、債務は約1000兆となります。

国際会計基準によれば、保険料は支払済みであり受給権が派生しているので、隠れ債務に当たります。国の制度としては、積立方式ではなく、賦課方式(=現役世代の保険料で、退職世代の年金を賄う単年度収支方式)を採っているため、計上していないのです。

この年金債務を控除すると国富が1/3も減少します。

②政府分を抜き出してみると、純資産ががマイナス13兆円(2014年度)の債務超過となっていること。

政府の借金(主に国債)1000兆円の債務を控除した後の数値で、13兆円の債務超過となっていますが、これに上記の年金債務1000兆円を加えると1013兆円の債務超過となります。但し、その借金の大部分は日本国内から借り入れていますので今のところ他国から債務削減を要求されずにいます。つまり日本の民間の財産を頼りに政府が借金をしている構造です。

一方、ギリシャ等の重債務国は、他のユーロ諸国から借金をしていることが原因で、緊縮財政策の実行を余儀なくされています。

日本の政府の債務は膨大であり、このまま増え続ける国債が日本国内で消化できず外国に引き受けてもらう、いわゆる外国から借金をする構造に陥るとギリシャの様な緊縮財政策を採らなければならなくなります。すると国の信頼性が揺らぎ、通貨の価値が減少、為替が暴落(円安)、輸入物価が高騰し、インフレとなります。(なお、ギリシャの通貨はユーロなので為替が暴落しないで済んでいます。)

また、国債が日本の民間で消化できずに日銀に引き受けてもらう、いわゆるヘリコプターマネーによる財政フィナンスが行われるとインフレに陥ることになります。つまり国が紙幣をばらまくことで紙幣の信頼性が揺らぎ、通貨の価値が減少、為替が暴落(円安)、輸入物価が高騰し、インフレとなります。
注①ヘリコプターマネーとは、ヘリコプターからお金をばらまくように市中にお金を大量に供給し、そのお金を使ってもらうことで景気を刺激する政策ですが、激しいインフレを引きおこす可能性があります。
注②政府(国)が発行した国債を日銀(国)が直接引き受けることで政府(国)が資金を調達することです。

加えて、インフレなのに経済が停滞するスタグフレーションになることもあります。

日本の歳入と歳出の基礎的収支(プライマリーバランス)は毎年赤字で国債を30~40兆円発行し借金1000兆円は増え続けている、日銀が国債を毎年80兆円購入し日銀保有残高は2016年12月で400兆に、2年後には600兆円になりそう等、異常な状況が続いています。

また、少子高齢化等経済成長の足かせとなる構造に対応する対策がとられていない状況です。

このような中で、日本は重債務国の道をひた走っており、将来の国情は非常に厳しいものになるでしょう。

日本の国富は相当の額があるように見えますが、過去日本が高度成長時代に蓄えたものであり、債務が急激に拡大する中で、財産も急激に減っていくのではないかと思います。それを取り崩すだけでは、将来はありません。

日本のこうした状況から脱却し未来へ向けて発進するためには、歳入と歳入の収支の黒字化、年金制度改革その他の構造改革をしっかり推し進めていかなければならないのではないでしょうか。

 

2016年12月30日 | カテゴリー : 経済, 年金 | 投稿者 : ファインRアドバイザー