日本の国富は真実か

内閣府の国民経済計算確報(2016年1月15日)によると、日本の国富は国全体の正味財産(民間・政府合計の貸借対照表における純資産=資産から負債を控除したネットの財産に当たるもの)で金額は3109兆円になるとのことです。国の借金1000兆円を含む債務を控除後の数値です。

これを聞くと日本には相当の財産があるものと考えがちですが、実はいくつかの盲点があるのです。

①純資産から年金債務が控除されていなことです。
②政府分を抜き出してみると、純資産がマイナス13兆円の債務超過となっていることです。

①純資産から年金債務が控除されていないこと。

2016年12月19日の日本経済新聞の記事に「年金債務が2030年・約1262兆円になる」との試算が出ていましたが、ここでは2014年・約1000兆円と推定し計算します。この1000兆円は、国の国債等の借金1000兆円とは別の債務で、合計すると約2000兆円になります。きわめて衝撃的な金額です。

日経新聞の試算過程を推定しますと2014ベースで保険料支払済みの受給権者(25年以上の加入実績がある人)33百万人、一人当たり月給付額14万円、65歳から85歳までの給付期間20年=240月で、年金給付総額は1108兆円となり、そこから積立金160兆円を差引くと約1000兆円となります。

例えれば英会話スクールでの前払い授業料を授業という給付を受ける債務の価値として評価するものです。国際的に適用されている会計基準では、こうした受給権は、給付総額を優良債権(例えば国債)の利率により20年間で割り引いた現在価値で債務として評価するのですが、現在の国債の利率は、ほぼゼロに近いので、給付総額≒債務となり、債務は約1000兆となります。

国際会計基準によれば、保険料は支払済みであり受給権が派生しているので、隠れ債務に当たります。国の制度としては、積立方式ではなく、賦課方式(=現役世代の保険料で、退職世代の年金を賄う単年度収支方式)を採っているため、計上していないのです。

この年金債務を控除すると国富が1/3も減少します。

②政府分を抜き出してみると、純資産ががマイナス13兆円(2014年度)の債務超過となっていること。

政府の借金(主に国債)1000兆円の債務を控除した後の数値で、13兆円の債務超過となっていますが、これに上記の年金債務1000兆円を加えると1013兆円の債務超過となります。但し、その借金の大部分は日本国内から借り入れていますので今のところ他国から債務削減を要求されずにいます。つまり日本の民間の財産を頼りに政府が借金をしている構造です。

一方、ギリシャ等の重債務国は、他のユーロ諸国から借金をしていることが原因で、緊縮財政策の実行を余儀なくされています。

日本の政府の債務は膨大であり、このまま増え続ける国債が日本国内で消化できず外国に引き受けてもらう、いわゆる外国から借金をする構造に陥るとギリシャの様な緊縮財政策を採らなければならなくなります。すると国の信頼性が揺らぎ、通貨の価値が減少、為替が暴落(円安)、輸入物価が高騰し、インフレとなります。(なお、ギリシャの通貨はユーロなので為替が暴落しないで済んでいます。)

また、国債が日本の民間で消化できずに日銀に引き受けてもらう、いわゆるヘリコプターマネーによる財政フィナンスが行われるとインフレに陥ることになります。つまり国が紙幣をばらまくことで紙幣の信頼性が揺らぎ、通貨の価値が減少、為替が暴落(円安)、輸入物価が高騰し、インフレとなります。
注①ヘリコプターマネーとは、ヘリコプターからお金をばらまくように市中にお金を大量に供給し、そのお金を使ってもらうことで景気を刺激する政策ですが、激しいインフレを引きおこす可能性があります。
注②政府(国)が発行した国債を日銀(国)が直接引き受けることで政府(国)が資金を調達することです。

加えて、インフレなのに経済が停滞するスタグフレーションになることもあります。

日本の歳入と歳出の基礎的収支(プライマリーバランス)は毎年赤字で国債を30~40兆円発行し借金1000兆円は増え続けている、日銀が国債を毎年80兆円購入し日銀保有残高は2016年12月で400兆に、2年後には600兆円になりそう等、異常な状況が続いています。

また、少子高齢化等経済成長の足かせとなる構造に対応する対策がとられていない状況です。

このような中で、日本は重債務国の道をひた走っており、将来の国情は非常に厳しいものになるでしょう。

日本の国富は相当の額があるように見えますが、過去日本が高度成長時代に蓄えたものであり、債務が急激に拡大する中で、財産も急激に減っていくのではないかと思います。それを取り崩すだけでは、将来はありません。

日本のこうした状況から脱却し未来へ向けて発進するためには、歳入と歳入の収支の黒字化、年金制度改革その他の構造改革をしっかり推し進めていかなければならないのではないでしょうか。

 

2016年12月30日 | カテゴリー : 経済, 年金 | 投稿者 : ファインRアドバイザー

日本国の社会保障債務の行方

2016年12月19日の日本経済新聞の記事に「2030年に社会保障債務が約2000兆円になる」との試算が出ていました。内訳は年金が1262兆円、医療が458兆円、介護が247兆円です。これは、国の国債等の借金1000兆円とは別の債務です。

年金について別途2030年の債務を試算してみました。保険料支払済みの受給権者(25年以上の加入実績がある人)40百万人、一人当たり月給付額14万円、65歳から85歳までの給付期間20年=240月とすると、年金給付総額は1344兆円となり、そこから積立金100兆円を差引くと1200兆円となります。例えれば英会話スクールでの前払い授業料の債務を授業という給付を受ける権利の価値として評価します。国際的に適用されている会計基準では、こうした受給権は、給付総額を優良債権(例えば国債)の利率により20年間で割り引いた現在価値で債務として評価するのですが、現在の国債の利率は、ほぼゼロに近いので、給付総額≒債務となり、債務は約1200兆となります。この債務は、保険料により積立ててあれば、積立資産と債務が両建てとなり相殺すれば債務はゼロとなりますが、現在の積立金は100兆円しかありません。しかも、政府の貸借対照表には年金の債務が計上されていないのです。つまり隠れ債務に当たります。国際会計基準を採用している企業では隠れ債務が許されないのに国が隠れ債務を持っている訳です。
なぜ国では年金債務が計上されていないのでしょうか。国の制度としては、積立金方式ではなく、賦課方式(=現役世代の保険料で、退職世代の年金を賄う単年度収支方式)を採っているため、計上しなくてよかったのです。そこで、過去の剰余金として10%程度しか積立がされていなかった訳です。

一方、医療、介護の債務につては、保険料支払済みの受給権というものはありません。例えれば英会話スクールで毎月授業料を支払い授業という給付を受ける形です。仮に受給権は発生しても授業を受けた段階で消滅しますので、1月で債務は消滅してしまいます。医療、介護については賦課方式(=現役・退職世代の保険料で、現役・退職世代(割合では退職世代が多い)の医療、介護の給付を賄う単年度収支方式)を採用するのが妥当なので、日経新聞に出ていたような債務を計上する必要はないと思います。年金と比較する上で医療、介護についても、同じように計算したのではないかと思います。

今後、今後少子高齢化により現役世代の減少が進む中で増加する退職世代の年金、医療、介護の給付を確保することはできなくなってくるでしょう。
すると年金、医療、介護の給付を保険料等(一部は一般財源の税金)で賄うことができなくなる可能性は高く、保険料を値上げするにも限度があり、年金を削減していくか、現役世代だけでなく、退職世代とくに高齢者の自己負担を増やしていくか、あるいは消費税を10数%アップして、税金で賄っていくしかありません。

いずれにせよ退職世代だけでなく現役世代にとっても厳しい将来が待ち受けています。政府は、消費税増税を何度も延期し、構造改革も掛け声だけであまり進めておりません。現在、将来を見据えた年金・医療・介護の制度改革が待ったなしの状況です。そうした改革の中で、現役世代と退職世代ともに痛みを分かち合う対策、および消費税の社会保障財源化対策が必要ではないでしょうか。

ロボット・アドバイザーの現状(Fintech)

ロボット・アドバイザー(以下ロボアド)とは、人工知能AIが投資理論に基づき投資配分、投資商品の選択・見直しをアドバイス又はサポートするWEBサービスです。

現状の投資信託でも、地域分散(世界分散)、資産分散、時間分散(積立型)の商品はいろいろあり、自分で調べて投資するのが難しい人々は、投資顧問業者と契約して様々な運用を行う、ラップ口座で株式・債券・投資信託を運用する、投資を専門にするファイナンシャルアドバイザーに相談して投資信託で運用する等の方法を採ってきたものと思われます。そうした中で、最近、安くて、リスクを分散した投資手法としてロボアドが出てきました。

それでは、どのように投資するのでしょうか。投資の手順、態様を見てみましょう。

ロボット・アドバイザーの投資手順
・投資者のリスク許容度を測定する。
・資産配分(安定型、成長型、折衷型ポートフォリオ作成)を行う。
・その資産配分に基づき投資信託、ETF(株価指数連動型投資信託)等を発注又は売却する。
・必要に応じて、積立、再投資、資産配分の見直し(リバランス)、税金最適化等を行う。
・急激な価格の値下りが生じた場合に損失を抑えるため投資信託等を売却する。
・上記の処理をアドバイスする、またはサポートする。

ロボット・アドバイザーの態様

項目 内容
運営会社 ベンチャー(創業)、ベンチャー(大手系列)、大手銀行系、証券系、ネット証券系等、様々
契約形態 投資を一任する契約
推奨する投資信託選択を支援し指示に基づき購入する契約
株式の損切のみを支援する契約
投資商品 時間分散(毎月積立型・随時積立型)
地域分散(お任せ型、割合指定型)
資産分散
米国ETF(世界分散投資)1種類のみ、数種類のETFをまとめたもの、 ファンド・オブ・ファンズの投資信託(元々のマザーファンドの組合せ)
リスク許容度の測定 年齢、性別、投資経験、収入、資産残高、毎月の積立額、運用目的、損失許容額等により投資のリスクをどこまでとれるか測定する
資産形成
プラン
どこでも無料
各人のリスク許容度(複数質問から判定)に応じた資産配分・投資商品を提案
投資金額 最低投資金額が1万円、10万円、100万円等がある
投資一任
報酬
運用資産×1%程度が多い、一任報酬としては安い
(証券会社のラップ口座では2~3%)
固定報酬(資産残高ベース)・成功報酬選択型(例・運用益の5.4%)もある
購入手数料 商品次第で、0、0.2%等がある
信託報酬 0.5%~1%未満、1%前後が多い
ファンド・オブ・ファンズの投資信託だと、当該ファンドの信託報酬のほか元々のマザーファンドの信託報酬を支払うことになるほか、投資一任報酬に購入手数料、信託報酬を含めて、購入手数料、信託報酬を別途徴収しない商品もある
運用 まだまだ各社のロボアドは運用実績が短い
商品によっては、運用資産残高が極端に低い場合がある
解約があるとファンド自体の運用に支障が出る場合もある
プランの変更又はリバランス プランを変更するか、リバランスで投資配分(ポートフォリオ)を変える自動リバランス機能付きのものもある
相場急変時のリスク回避等「運用を丸投げ」出来るものがある
相場急変時のリスク回避だけをサービスとしている商品がある
解約 通常のETFなら上場しているので流動性あり、解約がすぐできる
ファンド・オブ・ファンズの投資信託だと、当該ファンドを解約する場合には元々のマザーファンドを解約してから当該ファンドを解約することになるので時間がかかり、流動性が落ちるものがある

ロボアドは、フィンテック(Fintech:ITを活用した金融、決済、財務サービス)の1つですが、過大な期待を抱くのは危険です。

ロボアドは、
・手数料が、ある程度大きな金額の投資を前提とした従来のラップ口座と比べ、かなり安い
・リスク許容度に応じて資産配分の組み合わせができる、
・積立、再投資、資産配分の見直し(リバランス)、税金最適化等がある、
・相場急変時のリスク回避機能がある、
等の良い面もありますが、

・まだできたばかりで運用実績が乏しい、
・精度を上げるためには、膨大な過去データの蓄積が必要である、
・5年、10年、20年、それ以上の長期にわたる運用が必要である、
・長期にわたる検証が必要である、
等注意すべき点もあります。

安くて、リスクを分散した投資手法は良いのですが、投資が難しくわからないからとの理由だけで投資をするのをお勧めはできません。それぞれ、会社によって商品構成が違うので良し悪しを言えませんが、少なくとも地域・商品それぞれの分散の意味合い、リスクとリターンの関係を十分理解した上で利用すべきではないでしょうか。

投資信託自体の問題としては、
・ファンドオブファンズ(地域・商品の分散のため、投資ファンドの中に他のファンド商品を組み入れているもの)のように間接的に投資をしているもので手数料・信託報酬が2重払いになっている、解約に時間がかかる
・債券投資ではもともとリターンが少ない中で手数料・信託報酬をとられる
・為替ヘッジの手数料が相対的に高い、または為替ヘッジがなく為替変動リスクが高い
・株式中心の投資では手数料・信託報酬は安いがリスクが大きい
・新興国投資で価格変動リスクに加え、為替変動リスクがある
などリスクはいろいろあります。

現段階では
・少額で試してみる、
・参考にしてみる、目安としてみる、
程度が良いのではないかと思います。ロボットという言葉に惑わされず投資の原則に戻って、中身を吟味して分散投資を行うことを考えるべきではないでしょうか。そうすれば、資産運用の考え方が身につく機会ともなります。
なお、参考ですが、クレジットカードのポイントをロボアドの投資運用に充てるサービスを行っている会社(セゾン)もありますので、自己資金を拠出せずに試してみるのも1つの方法です。

 

2016年12月26日 | カテゴリー : 資産運用 | 投稿者 : ファインRアドバイザー

割安な海外旅行保険

海外旅行に行くときに、クレジットカード(以下クレカと略)に自動的に付いている旅行保険とダブって海外旅行保険に加入している人が多いのではないでしょうか。
クレカでは、基本的な死亡、障害・疾病の治療、救援者者費用、携行品損害、賠償等についての補償がつけられているので、海外で数千万円となるような高額な治療・救援者費用、賠償責任費用だけを追加するだけで、海外旅行保険を半分から1/3にすることができます。

通常、死亡、高度障害等は加入している生命保険があれば十分補償されるので、クレカの高額では無い死亡・高度障害はあてにする必要がありませんし、携行品は高額なものをもっていかない限りクレカの最低限補償で十分です。必要に応じて航空機寄託手荷物遅延費用等を付加すればいいのではないでしょうか。

また、海外旅行保険に加入する際にも、インターネットで申込をすると、窓口、飛行場等で 加入するよりもかなり安く済みますのでその方がお薦めです。
インターネットで、ある損保会社の海外旅行保険に加入した例では、ハワイ9日間で治療・救援者費用夫々2000万円、賠償責任費用1億円を追加し保険料は1900円程度でした。
大手の損保会社でもいろいろ取り扱っていますので、自分に合ったサービスを選択されたらいかがでしょうか。

 

 

2016年12月26日 | カテゴリー : 保険, 損害保険 | 投稿者 : ファインRアドバイザー

個人向け国債の収益性

個人向け国債は債券の中で、国の保証があり安全性に優れていますが、収益性は低金利政策の中でかなり低い商品となっています。しかし、最低年率は、都市銀行の利率0.0.1%より高い0.05%なので、収益性が極端に悪い商品ではありません。また、流動性については、1年間だけは解約できないのでその拘束はあるものの、1年後にはいつでも1年分(半年分×2回)0.05%の金利分を解約手数料として支払えば解約出来るので、すぐに使うお金で無い限り流動性にそれほど問題はありません。また、その解約手数料もまた収益性の面からみて大した金額とはなりません。100万円であれば、500円の解約手数料になります。

但し、これだけみると個人向け国債はそれほど魅力的商品ではないと思われがちですが、他に収益源があるのです。大手証券会社では個人向け国債を買うと、0.3%~0.5%の奨励金を出しています。1年間だけ見れば、0.3~0.5%の奨励金から0.05%に解約金を控除しても手元には0.25%~0.45%の収益が残るわけです。

そこで、1年間の運用に限れば、最大0.2%程度のネット証券の1年定期預金より利率が高くなります。このように、奨励金を活用して、低金利でも可能な限り利子を狙うことも1つの方策でしょう。100万円であれば、2.5~4.5千円の利子が手に入ります。

個人向け国債は、3年固定、5年固定、10年変動の3種類がありますが、どれも利率は最低の0.05で同じなので金利が上がる可能性も考え10年固定がお薦めです。10年固定でも1年後には解約できます。

なお、証券会社に口座を持っていない方は、口座管理手数料が数千円かかりますので、それの見合いで口座開設の是非を考えて下さい。

余裕資金なら、都市銀行に預金するよりも個人向け国債を買った方が良いのではないでしょうか。

 

 

 

2016年12月13日 | カテゴリー : 資産運用 | 投稿者 : ファインRアドバイザー

個人型確定拠出年金の概要

個人型確定拠出年金の概要は次の通りです。

厚生労働省HPより抜粋し編集

項目 企業型確定拠出年金DC 個人型確定拠出年金IDECO
加入者 DB(確定給付型),DC(確定拠出型)のある会社員 DC(確定拠出型)のない会社員、自営業者、学生
拠出

 

会社100%(福利費) 個人100%(手取から拠出)
 

 

 

拠出時 非課税 非課税
運用時 非課税 非課税
年金受取時 雑所得課税(60歳以降) 雑所得課税(60歳以降)
一時金受取時 退職所得課税 退職所得課税
運用主体 個人(投資商品指定) 個人(運用機関指定)
運用機関の選択 会社 個人
拠出限度額/月 DC(確定拠出型)のある会社員     55,000円

DB(確定給付型)のある会社員     27,500円

DC(確定拠出型)のない会社員      23,000円

自営業者、学生 68,000円

同上(2017年1月以降の新規対象者) 専業主婦    23,000円

DC(確定拠出型)のみある会社員       20,000円

DB(確定給付型)のある会社員、公務員等    12,000円

メリット
・加入者個人が運用の方法を決めることができる。
・社員の自立意識が高まる。
・経済・投資等への関心が高まる。
・運用が好調であれば年金額が増える。
・年金資産が加入者ごとに管理されるので、各加入者が常に残高を把握できる。
・一定の要件を満たせば、離転職に際して年金資産の持ち運びが可能。
・企業にとっては、掛金の追加負担が生じないので、将来の掛金負担の予測が容易。
・掛金を算定するための複雑な数理計算が不要。
・拠出限度額の範囲で掛金が税控除される。

デメリット
・投資リスクを各加入者が負うことになる。
・老後に受け取る年金額が事前に確定しない。
・運用するために一定の知識が必要。
・運用が不調であれば年金額が減る。
・原則60歳までに途中引き出しができない。(退職金の代わりにはならない)
・勤続期間が3年未満の場合には、資産の持ち運びができない可能性がある。
・加入者ごとに記録の管理が必要になるため、管理コストが高くなりやすい。

2017年1月より、新規対象者に拠出限度額/月として
専業主婦が23,000円 (年間276,000円)
DC(確定拠出型)のみある会社員が20,000円 (年間240,000円)
DB(確定給付型)のある会社員、公務員等が12,000円 (年間144,000円)
追加されます。

拠出時、運用時、受取時にそれぞれ所得税、住民税の優遇措置の対象が拡大されます。とくに、拠出時に拠出限度額以内なら全額を損金に計上できるので拠出額の数十%の所得税・住民税が減少することになります。

個人型確定拠出年金は、個人の財布(手取り)から拠出するので、ちょっとハードルが上がるかも知れませんが、メリットがある制度だと思います。
但し、商品が多様にある金融機関を決定し、かつ運用商品の中から自分の投資方針に沿った商品を選択しなければなりません。DC(確定拠出)年金では、会社が選んだ金融機関(会社の取引先が多い)の商品しか選べず、選択肢が限られていましたが、個人型確定拠出年金IDECOでは、自分で金融機関を選べるので、選択肢は広がりました。その分いろいろな金融機関があるのでどこを選択するか迷うこともあるようです。インターネット、雑誌等で評判の良い会社を選択し、安定運用、積極運用、バランス運用等投資方針を決定の上、自分に合った商品を選択することになります。

 

仕組み債の構造

仕組み債とは、ある「仕組み」を持った債券のことを言います。
「仕組み」とは、デリバティブ(金融派生商品)を利用し、利子や満期、償還金、通貨などを投資家のニーズに合わせて設定した「仕組み」です。

デリバティブとは、スワップやオプションなどのことを言います。スワップとは、例えば変動金利と固定金利を交換する金利スワップ、ドルを円と交換する通貨スワップなどです。オプションとは、株などをあらかじめ約束した価格で、一か月後、一年後など将来に売ったり買ったりできる権利です。

デリバティブには条件が付与されます。
通貨では「為替相場が一定の幅にある限り」、株価では「日経平均がxx,xxxx円以上である限り」のような条件です。そのような条件のもとに金利が通常より高いなどの仕組みが組成されます。一定の幅を超えた、下限を下回った場合には、利子が出ない・減少する、元金が減少する、償還金の通貨が変わり円建てでの元本割れが生じるなど損失が発生する構造です。

デリバティブには、買手にスワップ料、オプション料等のコストがかかりますが、売手にはオプション料などが収入になります。そこで、通貨、株価などの相場が落ち着いて変動がなければ、売手には手数料が自動的に入ってきますので、これが売手の利益となります。例えば、平たく言うと、金利が通常よりも高い仕組み債は、債券の保有者がデリバティブの売手になっており、オプション料などが金利に上乗せされている債券です。ところが、相場が激しく変動すると上述のように損失が発生する債券でもあります。仕組み債に手を出すと、デリバティブのような難解なものに手を出していないつもりでも実際には手を出しまうことになります。

では、デリバティブの買手は、どのようなポジションなのでしょうか。買手は、通貨、株価などの相場が落ち着いて変動がなければ、コストだけ負担して損をしてしまいます。しかし、仕組み債におけるデリバティブの買手は、大手の取引業者、金融機関、ファンドなどであり、いろいろなデリバティブの売手にもなって買手のコストを相殺【ヘッジ】しかつ利益を出すように行動しています。

仕組み債は、相場が安定していれば、現状からみて損失が発生する可能性が低く、金利が通常よりも高いなどメリットのあるように見える債券ですが、リスクが大きい債券であり、投資する人は、時には大きな損失を被る可能性があることを認識した上で投資し、相場の変動の兆候があった時に直ぐに処分する態勢を取っておく必要があります。

また、仕組み債は、一般的な債券のリスク(①信用リスク②価格変動リスク③為替変動リスク④流動性リスク)のうち④の流動性リスクに特に注意が必要です。
仕組み債は、クローズドエンド型の商品として基本的に中途解約することができない商品もあり、投資に際しては解約の是非、その価格について販売会社に十分確認することをお勧めします。

2016年12月13日 | カテゴリー : 資産運用 | 投稿者 : ファインRアドバイザー

日銀の財務悪化に対する懸念

日本経済新聞に先月、今月と連続で日銀の財務状況の悪化の記事が出ていました。
第1は買入れた国債の含み損、第2はその国債の利息収入の悪化です。
原因は共にマイナス金利、金融緩和です。

国債の含み損
含み損は国債の買入れ価格と額面との差で、長期金利の低下により国債価格が上昇し金融機関から買い入れる国債が額面を上回り発生します。満期が来て償還されると額面との差額が実現損となります。日銀は、安倍政権誕生後、黒田総裁が就任し、年間80兆円もの国債を買い集めており国債の残高は2016年度末で400兆円超(国債発行残高の1/3)ですが、その国債の含み損が10月末で9.3兆円にもなっています。2013年年4月末金融緩和開始から約8兆円も増えました。

国債の利息収入の悪化
上記の含み損は、会計上満期が来るまでの期間で分割して計上し、利息収入と相殺後、ネットの損益を計上しますが、分割損失計上額(=利息調整額という)が少なかった金融緩和初期には、利息収支は増加傾向にあったものの徐々に頭打ちとなりその後減少に転じています。今後、利回りの高い国債が償還期を迎え利回りゼロや含み損の国債が増えていくと利息収支はどんどん悪化していきます。2018年には利息収支が赤字になる可能性が高いとの専門家の予想も出ています。(国際基準である企業会計では、時価会計が原則であり、時価のある金融商品は含み損を期末に評価損として計上しなければならないのに、日銀が一括して損失を計上しないのはは不思議でしかありません。)

このように、日銀の財務が悪化すると
国への納付金が減り国の財政悪化に結び付く、
国の支援を受ければ金融政策の独立性が揺らぐ
通貨の信認が揺らぎ円安になる(経済成長に結びつく良い円安ではなく、通貨の信用がなくなる悪い円安、例ブラジル、アルゼンチン)
ことになります。
さらに、こうしたことにより、物価の上昇、インフレ、金利の高騰を招く可能性も否定できません。日銀の国債の価値が減少して含み損が拡大し利息収支も悪化する、金利が高騰すると経済が悪化する、経済が停滞するも物価が上昇するスタグフレーションになる等の負の連鎖が起きるとも限りません。

今まで、マイナス金利を含む量的質的金融緩和のコスト(悪い影響)が隠されていましたが、上記のような兆候を契機にして、アベノミクスの3本の矢(財政政策、金融政策、成長戦略)のうち金融政策の結果を数値で検証する時期に来ていると思います。

 

2016年12月9日 | カテゴリー : 経済 | 投稿者 : ファインRアドバイザー

配偶者控除の改正について

2016年12月8日に決まった2017年度与党税制改正大綱は、2017年の通常国会で税制改正法案として提案される予定とのことですが、その目玉は配偶者控除の見直しです。

配偶者控除とは、一定の年収以下の配偶者(主に専業主婦)には年収がない被扶養者と同様に、扶養者(主に夫)の所得控除を38万円認めるものです。加えて、配偶者特別控除とは、一定の年収を超えると所得税が急激に増加するのを緩和するため、定められた年収までは所得控除を段階的に減らしていくものです。

今回の改正案では、配偶者控除については、年収要件を現在の103万円(配偶者の給与所得控除65万円+基礎控除38万円の合計)から150万円(内訳は不明)まで拡大するほか、配偶者特別控除についても、年収要件を141万円(103万円+38万円の合計)から201万円(150万円+51万円の合計)まで拡大します。一方、扶養者(主に夫)には新たに年収要件を導入し、1120万円以下は従来どうり38万円の控除、それを超えて1220万円まで段階的に控除を減額し、1120万円超になると控除はなくなります。配偶者特別控除も基本的には同様な形をとります。

今回の配偶者控除の見直しは、女性の社会進出を目指す働き方改革の一環の様ですが、2016年9月22日のブログ「扶養控除の改正」でも書いた通り、社会保険の免除となる基準として130万円(一定の条件に該当する場合は106万円)があり、所得税の配偶者控除の基準と整合がとれていないだけでなく、新たに所得税の配偶者控除150万円の基準ができ、より分かり難くなります。

果たして、この配偶者控除の見直しだけで働き方が変わるのでしょうか。欧米の中には、税と社会保険料のを一体として捉え段階的控除の仕組みがある国もあるようなので、日本においても税と社会保険料の負担基準の整合を図ることが求められます。

 

民事信託の活用の難しさ

信託には、民事信託と商事信託があります。民事信託は、反復継続しない活動が前提の信託であり、個人、NPO法人、社団法人等の法人が受け皿となるものです。一方、商事信託は反復継続して営業活動を担う信託銀行等が行うものです。

信託は、最近、相続等で紹介される事例が増えていますが、まだ信託銀行で一部取扱いがあるものの、一般の人々には広まっているとは言えない状況です。例えば、相続に関連して、信託銀行で扱っている教育資金贈与信託、暦年贈与信託、遺言代行信託は、多様性のある信託スキームのうち信託銀行が得意とする金銭信託機能を中心に、頻度が多いものに特化した限定的な信託です。また、信託銀行で取り扱っている遺言信託は遺言作成・執行の代行サービスで信託法上の信託業務ではありません。

なぜ、信託銀行が一部の信託しか扱っていないのでしょうか。民事信託は信託法で自由度を与えられていますが、商事信託は、消費者等不特定多数の人々と継続的な営業取引をするので、その財産保護が必要との観点から、信託業法で免許を始めとする厳しい規制を課されているためです。

では民事信託では、どのようなことができるのでしょうか。いくつか、相続に関して例を挙げます。

遺言代用信託: 本人が財産を生前に信託の受託者(他の者A)に信託し、信託した後受託者Aが特定の受益者(本人)に信託財産を分配するもので受益者(本人)の死亡を起因として一度のみ、後の受益者(他の者B)を指定することができるものです。受益者は、本人⇒指定された人(他の者B)なります。指定された人は相続人以外も可能ですが、遺留分(相続分の一定割合)を侵害すると遺留分減殺請求(いわゆる返還請求)がなされる可能性があります。(以下に同様)
例えば、子供のいない内縁夫婦の場合、夫が存命中は自分を受益者とし、夫の死亡後には内縁の妻を受益者に指定します。

遺言信託: 本人が「死亡時の財産を信託の受託者(他の者A)に信託すること」を遺言し、本人の死後、受託者Aが特定の受益者(他の者B)に信託財産を分配するものです。受益者は指定された人となります。例えば、本人が遺言で自分の身上介護をしてくれた人、特別に支援したい障害者等を受益者に指定します。

後継ぎ遺贈型受益者連続信託: 本人が財産を生前に信託の受託者(他の者A)に信託し、信託した後、受託者Aが特定の受益者(本人)に信託財産を分配するものですが、受益者の死亡を起因として連続して受益者を何度も指定(他の者B,C等)することができるものです。受益者は、本人⇒指定された人B⇒指定された人C⇒続く となります。例えば、子供のいない夫婦の場合、夫が自分の死亡後には妻を受益者に指定し、妻の死亡後には妻の遺族ではなく夫の親族を受益者に指定します。
このように相続に信託を使うと、生前に信託する、死後に信託する、生前に財産の分配を受ける、死後に財産の分配を受ける、財産の分配を受ける特定の受益者を一度だけ指定する、または複数回にわたり指定することを選択でき、相続の自由度が高まります。

また、信託は、財産が委託者本人から受託者に移転(名義変更)しますが、信託の目的に従い財産の分配を受ける権利(受益権)は受益者(=委託者本人又はその指定人)に残るという、倒産隔離機能がある財産管理制度なので、倒産、破産等から財産が守られる仕組みががあります。そこで、相続の他、後見制度支援、不動産管理、個人年金信託、事業承継等に利用できる制度です。

今後、民事信託を活用するためには、信託に関する教育も必要ですが、やはり第一に受け皿となるNPO法人、社団法人等の法人を育成すると同時に、規模の大きい信託銀行等に対する信託業法の規制を緩和し、利用者が使いやすい環境を作ることが必要と考えます。
また、税制面では、受益者連続信託は税負担が重くなる、不動産信託の損益通算・純損失の繰越しができない、手続きが煩雑である等のデメリットがあるので、使い易くするため税制面で整備がなされることも重要と考えます。

2016年11月30日 | カテゴリー : 信託, 相続 | 投稿者 : ファインRアドバイザー