2016年11月29日に国民年金法改正案が衆議院で可決されました。まだ、参議院で可決されてはいませんが、年金の今後の方向を確認する上で重要な法案です。
現在、年金の金額を調整する方式には、物価・賃金の変動に合わせて年金額を調整する「賃金スライド」、「物価スライド」、年金の賦課方式(現役世代が高齢世代を支える方式)の現役被保険者の減少分と高齢受給者の余命の伸長分だけ給付を削減する「マクロ経済スライド」があります。
・「賃金スライド」
新規の受給者は現役世代並みを維持するため、当初は賃金変動率により調整されます。(但し、賃金・物価変動率共にマイナスで物価変動率<賃金変動率の場合、物価変動率で調整、または現状維持にする例外があります。)
・「物価スライド」
既存の受給者は実質購買力維持のため物価変動率により調整されます。(但し、物価変動率<賃金変動率の場合、賃金変動率で調整、または現状維持にする例外があるため、本来は賃金変動率により調整されるはずでしたが、過去に調整されたのは例外的でした。)
・「マクロ経済スライド」
物価・賃金の上昇に際しては、年金額を増額しますが、給付削減のための「マクロ経済スライド」がある場合は、将来増額すべき年金額から、「マクロ経済スライド」減額分を控除(減額が増額より大きい場合は現状維持とし激変を緩和)します。つまり物価・賃金が上昇している時には年金額は増額又は現状維持するものの減額はされません。
・物価・賃金の下落に際しては、年金額を減額します。給付削減のための「マクロ経済スライド」がある場合であっても将来減額すべき年金額に「マクロ経済スライド」減額分を上乗せはしません。(減額幅を抑え激変を緩和します。)
上記は年金の減額の仕組みに給付激変の緩和措置を取入れたものです。本来は緩和部分が繰延されるはずでしたが、過去に繰延されたのは例外的でした。
ところが、今回の改正案は、新聞を読んだ限りでは、既存の受給者について物価変動率<賃金変動率の場合、原則どおり賃金の変動に応じて年金が調整されること、マクロ経済スライドが強化され、給付激変の緩和部分も持越・繰延して将来の年金抑制を図ることが盛り込まれているようです。特に、物価が上昇しても賃金の上昇が少ないまたは賃金が減少する場合には、賃金を基準に年金を調整(減額)することになります。
つまり、1990年代に日本が陥った、物価が上昇するけれども経済が停滞し収入・賃金が延びない悪い経済状況(スタグフレーション)では、年金が減額され生活が苦しくなります。
また、現在の経済状況においても、類を見ない金融緩和にも拘わらず経済が拡大しないのは賃金が上がらないからだとの経済学者の見解もあり、今後物価は上がるけれども賃金は上がらずその賃金に応じて年金額が決められていく可能性が高いと思われます。
国の予算の赤字が止まらず社会保障費の年金費用が増加する中で、年金費用の抑制のためには、諸施策を講じた上、現役・高齢者双方が痛みを別ち合う形であれば、年金削減も致し方ないとは思いますが、本来は100年安心な年金と言われた年金制度の構造的綻びを是正するための構造改革を進めるべきではないかと思います。
少子高齢化により、現役が高齢者を支える構造だけでは立ち行かないので、賦課方式(現役世代が高齢世代を支える方式)に加え積立方式(退職金・退職年金方式)を制度に組み入れる、保険料の徴収を強制化(税と同じように徴収)する、被保険者の対象を拡大(短時間労働者の組入れ等)する、受給年齢を引上げる、高齢者の就業機会を拡大する等、総合的な施策により年金制度の再構築・維持発展を検討すべき時期にきているのではないかと思います。